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業務上横領を警察が捜査する”きっかけ”

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企業を経営している方であれば,大なり小なりと「これは業務上横領になるのでは?」という出来事に遭遇した経験があるのでは?

つい出来心で…の最大系が「業務上横領」でしょう。

今回は,企業活動において発生しやすい業務上横領と警察捜査について触れてみましょう。

業務上横領とは何か?

業務上横領は刑法第253条に「業務上自己が占有する他人の財物を横領したもの」と規定されています。

相変わらず条文だけでは理解しにくいので,少し分解してみましょう。

まず「業務」です。
イメージとして「業務=仕事」と思われがちですが,これは誤り。
ここでいう業務は「社会通念上,反復継続して行われる行為」のこと。
少し前まで交通事故が「業務上過失傷害(自動車を運転する行為=業務)」だった考え方と同じですね。

次に「自己が占有する他人の財物」。
カンタンにいえば「預かり物品」です。
ちなみに単純作業には占有が発生していないため,これに含まないとされています。
「レジ係の従業員が売上金を着服する行為」は預かり物品というほどの権限を与えられていないので,横領ではなく窃盗になります。

最後に「横領」。

サクッと書いていますが,ここも難しい。
カンタンに言えば「委託された金銭,物品を自分の意のままに処分すること」です。
処分とはふところに入れる,売却する,隠す,捨てるなど全てを含みます。

業務上横領の法定刑は10年以下の懲役で罰金刑はありません。

普通の横領罪(業務上横領と比較して「単純横領」とも呼ばれる)が5年以下の懲役であることと比較すると,業務上の委託関係を背信することにどれだけ重い責任があるのかがよく分かりますね。

例としては

  • 会計事務職員が,伝票操作によって売上金を偽装し着服する行為
  • 顧客対応を担当している銀行職員が,顧客の現金を着服する行為
  • 店舗責任者が売上を偽装し,本部に少なく納金して差額を着服する行為

などが挙げられます。

警察捜査の対象となるきっかけは?

業務上横領を警察が独自に認知することはまずありません。

ほとんどが被害にあった企業などからの届出によって認知します。

稀な例では,新聞やニュースで報道されることで警察が認知することもありますが,企業側に被害届の意思がなければ事件化はされないし,実際に「横領分は弁済済みで正式な届出はしない方針」と報道され警察の出番がないことも。

企業が業務上横領を発見するきっかけで最も多いのは,横領職員自身が自転車操業の限界点で失敗をし,周囲が認知することです。

未入金などを得意先に請求して「支払いは終わってますよ?」となり発覚することも。

穴埋めが間に合わずに内部監査で発覚するケースもあります。

ひとつの横領を隠すために次の横領を犯し,その穴埋めに奔走することで長期的な横領に陥りますが,必ず限界点が訪れて発覚するのが「業務上横領」なのです。

金額によって警察が事件にしないこともある?

横領はたとえ1円でも横領。
1円だろうが1億円だろうが,適用される法律は同じです。

そういう意味では「金額の多寡は関係ない」というのが常識的ですが,実際はどうでしょうか?

少しリアリティを出すために「会計事務職員が横領したことが内部監査で判明した。実損は10万円。」と設定してみましょう。

当然,被害届を提出するというなら受理するでしょう。
しかし,実損が10万円だとしてもおそらく10万円の実損を生むまでに複数回の横領と穴埋めを繰り返していたはずです。

業務上横領の捜査は,警察はもちろん被害者にとっても非常に手間がかかる面倒な捜査です。
真正な売上と現金の出入りを帳票類からはじき出し,犯行の証拠となる数字をデータとして明確に表さなくてはいけません。

さらに業務性の疎明のために,被疑者の担当業務,決裁ルート,その他の業務について何人もの職員から供述調書を録取する必要があります。
会社に保管している会計の帳票類は全て提出を受ける必要があります。
被害届を出した後に必要な被害者側の捜査協力は並大抵のものではありません。

ゆえに警察も,実損が少なければ「弁済は可能なんですか?」と事件化を嫌う傾向があります。

「すぐさま穴埋めができる一時的な流用は横領としない」なんて学説もあるくらいですから,お金でカタをつけても良いでは?となります。
全額の弁済があると「警察には通報したが告訴はしない」というケースもあります。

実際のところ,弁済できないのなら刑罰を受けて反省してもらうしかないというスタンスの企業も多く,金額の多寡は事件化の方針に大きく影響するといっていいでしょう。

弁済ができても事件化を避けられない場合もあります。
銀行などの金融機関は,職員による業務上横領が発生した場合,警察等関係機関にその旨を通報するよう義務付けられています(「主要行等向けの総合的な監督指針」III-3-1-1 (1)不祥事件等の発覚の第一報)。

弁済を受けたが事件化した,という例が一般の企業に見受けられないのは,企業のイメージダウンを避ける目的もありますが,事件化を義務とされていないからでもあるわけですね。

 

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