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痴漢事件で否認!被害者の供述のみで有罪になる?

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痴漢事件が発生した場合,被害者がその場で声をあげて犯人を名指しする,たまたま犯行を現認した目撃者が犯人を特定する,被害者又は目撃者などが駅員あるいは駅近くの交番の警察官に訴え出る,などして,犯人が逮捕されるというのが一般的と考えられます。

犯人とされた被疑者が痴漢行為を一貫して否認し,犯行の目撃者もなく,被疑者の指から繊維片も採取できない状況で,被害者の供述のみで起訴された場合,裁判で,被告人は有罪となるのだろうか。裁判においては,被害者が痴漢被害に遭ったのかどうか,被害に遭ったのは事実として,果して被告人がその犯人なのかどうか,という二つの点について,被害者の供述の信用性が問題となります。

被害者の供述の信用性の判断は?

被害者の供述の信用性は,どのように判断されるのでしょうか。

この点については,被害者自身にまつわる次のような事情により,供述の正確性を吟味することになります。

第一に,被害者が痴漢被害や誰が犯人なのかの事実を正しく認識し,その意味するところを十分理解しているのかどうかを検討します。
これが出発点だからです。

第二に,被害者が痴漢被害の事実や誰が犯人であるかを正しく認識し理解したことを,証言時まで正しく確実に記憶しているのかどうか,また,記憶していることを尋問に応じて正確に表現しているのかどうかを検討します。
ここでは,被害者の記憶保持の能力や表現能力が問われることになります。

第三に,被害者の人柄や被告人との利害関係はどうかを検討します。
この場合,真実を述べ難い事情がないかが問題になります。

第四に,被害者の法廷における供述態度はどうかを検討します。
ここでは,被害者が被告人に敵意や反感を抱くような事情がないかどうかを見極めることも必要になります。
そして,痴漢被害や犯人について述べるところが,事理にかなっているかどうか,理路整然としているかどうか,作為の形跡が認められないかどうか,不自然な点はないかどうか,具体的かつ詳細な内容かどうかが問題になります。

最後に,被害者の供述が,間違いのない間接事実と照合して,矛盾している点がないかどうかを確かめます。

以上のような検討の結果,誰が考えても,被害者が痴漢被害に遭ったことは間違いないという心証を抱いたとします。
しかし,痴漢被害に関する供述が,臨場感にあふれ,理路整然としていて,十分に信用できるからといって,そのことが,被告人が犯人だということの正確性までも意味するものではありません。
ここに,痴漢事件の難しさがあります。
痴漢被害の事実と同様に,その犯人が被告人であるという,被害者の供述が信用できなければなりません。
要するに,被害者の供述によって,被告人が犯人であることが合理的な疑いを超えて証明されなければならないのです。
痴漢被害に遭ったのは間違いないのだから,その真実を語る者は同時に犯人についても真実を語っているという意識に導かれる危険を避けなければなりません。

有罪となる場合はどんなとき?

被告人と被害者の供述が対立し,しかも,客観的な証拠による決め手を欠く場合でも,被害者の供述によって,被告人が犯人であることが合理的な疑いを超えて証明されれば,被告人は被害者に対し痴漢を犯したとして,有罪になります。

有罪となる場合の問題性とは

客観的な証拠による決め手を欠く場合には,有罪か無罪かは,被告人と被害者の供述のいずれが信用できるかにかかってくることになります。
被告人の供述が誤りで,被害者の供述が正しいというような法則はないのですから,それぞれの供述の信用性の判断を誤ることのないように慎重に検討されなければなりません。
犯行を裏付ける客観的証拠がない場合には,痴漢被害の結果に目を奪われ,十分な吟味もなしに,被告人が犯人だという被害者の供述に安易に頼るのではなく,犯人性について確信が得られなければ,最終的には「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に従うのが本来の姿なはずです。


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