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刑事事件

痴漢事件で”勾留されない”ことはあるのか?

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強制わいせつに至らない条例違反(都道府県が制定する,いわゆる迷惑防止条例違反)の痴漢行為(以下「条例違反行為」といいます。)で逮捕された被疑者が,犯行を否認している場合,裁判官は,検察官の勾留請求を却下することがあるのだろうか。

勾留の請求を受けた裁判官は,刑事訴訟法(以下,単に「法」といいます。)207条1項,60条1項(以下においては,法60条1項のみを表記することとします。)に従い,勾留の要件の存否を判断し,それが満たされているときは勾留状を発付し,そうでないときは被疑者の釈放を命ずることになります(法207条4項)。

では,被疑者が条例違反行為を否認しているような場合(以下「本事案」といいます。),裁判官は,法60条1項各号の勾留の理由,そして勾留の必要性について,どのような点に着目して,被疑者を勾留するか否かを判断するのでしょうか。

法60条1項各号の”勾留の理由”についての判断

⑴ 住居不定(1号)

住居不定であるか否かは,一般的に,余り問題となることはありませんので,本事案において住居不定と認定された場合には,原則として,勾留状が発付されることになります。

⑵ 罪証隠滅のおそれ(2号)

本事案では,罪証隠滅のおそれが一番の問題となります。捜査機関は,被疑者の否認それ自体を,罪証隠滅行為と結びつけて考える傾向にあります。
しかし,否認の供述をもって,安易に罪証隠滅のおそれを肯定することは,まさに被疑者の自白を得るために勾留を認めることと同じになります。

被疑者の否認の供述態度は,罪証隠滅の主観的可能性を判断する一資料にすぎませんから,本事案において,罪証隠滅のおそれがあるといえるためには,その罪証隠滅のおそれの程度が,単なる抽象的可能性ではなく,具体的資料に基礎付けられた相当高度の可能性に達していると認められる必要があります。

被疑者と被害者,目撃者との間に全く面識がなく,お互いの生活圏も異なり,犯行とされる現場に居合わせたにすぎない場合には,被疑者が当該関係者に働きかけるなどして,罪証隠滅を図るだけの客観的可能性は低く,実効性も現実的ではないともいえます。

ただ,果してそう言ってもいいのかどうかについては,やはり慎重な判断が求められます。
その判断には,特に,被疑者の年齢,職業,家族関係,交友関係,前科前歴の有無等が大きく影響してきます。
定職のある,家庭持ちの被疑者であれば,痴漢行為を否認して争っているからといって,思慮分別なく,被害者や目撃者に接触したりして罪証隠滅行為に及ぶとは,通常は考えられないからです。

その見極めが重要になりますが,その実効性が抽象的可能性にとどまる場合には,罪証隠滅のおそれは否定されるべきです。
逆に,上記のような状況にない場合には,罪証隠滅のおそれが肯定されることになります。

⑶ 逃亡のおそれ(3号)

被疑者の年齢,職業,家族関係等からみて,一時的にせよ身を隠すとは考えられない場合,被疑者には前科前歴がなく,処罰を免れるために所在不明になる可能性がない場合には,逃亡のおそれは否定されるでしょう。

勾留の必要性についての判断

法60条1項各号の勾留の理由がある場合であっても,勾留による積極的な利益と被疑者の勾留によって受ける不利益とを比較検討し,被疑者やその家族が受ける不利益が極めて大きい場合(被疑者や家族の病状,就職,結婚,試験など,人の生死や人生の重大事に直面している場合)には,勾留の必要性を欠くとして,勾留請求が却下されることもあると考えられます。

以上から,法60条1項各号の勾留の理由がないか,仮に勾留の理由がある場合でも,勾留の必要性を欠くとして,勾留請求が却下されることもあるといえます。


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